相続時の遺産分割が将来の譲渡所得税に与える影響(3回連載の1回目)
相続の際にどのように遺産分割するかは、相続税はもちろんですが、その後万が一相続した財産を売却することになった場合には譲渡所得税の税額にも影響してきます。
このことを知っているかいないかで将来数百万円税額が変わることになりますが、いくつかの譲渡所得の特例が係わってきますのでこの後3回に分けて解説していきます。
—
今回解説する特例:「相続空き家の譲渡の特例」
今回解説していくのは「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(相続空き家の譲渡の特例)」です。
相続空き家の譲渡の特例とは、相続財産に含まれる被相続人が相続開始時に居住の用に供していた不動産(同居親族等がおらず相続後空き家になったもの)を譲渡する際に適用される特別な税制措置です。この特例は、相続によって得た空き家の有効活用を促進し、空き家の増加による地域の衰退を防ぐことを目的としています。
相続した空き家を売却する際、通常は譲渡所得税が課されます。しかし、一定の条件を満たす場合には、譲渡所得税の特例が適用され、税負担が軽減されます。この特例は、相続した空き家を売却することを促進するための措置であり、具体的には以下の条件を満たす必要があります。
特例適用の主な条件
- 相続開始日から3年以内に売却すること
相続が開始された日(死亡日)から3年以内に空き家を売却する必要があります。この期間を過ぎると特例は適用されません。 - 売却価格が1億円以下であること
売却する空き家の価格が1億円を超える場合、特例の適用を受けることはできません。 - 被相続人が居住していた家屋であること
売却する空き家は、被相続人が居住していたものでなければなりません。例えば、被相続人が亡くなる直前まで住んでいた住宅が該当します。(相続開始前に老人ホームに居住していた場合にも適用可能な場合がありますが、詳細に要件を確認する必要があります。) - 売却時に一定の要件を満たす:売却時に空き家が一定の要件を満たしている必要があります。具体的には下記の要件などがあります。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと。
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
- 家屋が耐震基準を満たしている又は取り壊した後の土地であること など
特例の効果
この特例を適用することで、譲渡所得税の計算において、3,000万円(注)の特別控除が受けられます。これにより、売却益から3,000万円を差し引いた額に対してのみ課税されるため、大幅な税負担の軽減が期待できます。
(注)令和6年1月1日以後に行う譲渡で被相続人居住用家屋および被相続人居住用家屋の敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は2,000万円までとなります。
—
具体的なシミュレーション例
前提:相続人が被相続人の子供2名、実家の不動産を6,000万円で売却予定(取得費は0とする)
遺産分割の方法によって、譲渡税額に大きな差が出ます。
- 遺産分割時にどちらか一人が不動産を相続し、売却した場合の譲渡税額
〔6,000万円(譲渡対価) - 3,000万円(特別控除)〕 × 20% = 600万円 - 遺産分割時に二人で共有して不動産を相続し、売却した場合の譲渡税額(各自)
〔3,000万円(譲渡対価) - 3,000万円(特別控除)〕 × 20% = 0万円
分割時にどのように相続するかで譲渡所得税が600万円変わることになります。したがって、相続時に将来の譲渡(売却)のことまで踏まえて分割することが重要になるわけです。
—
申告と留意点
最後に、この特例を利用する際には、税務署への申告が必要です。適用を受けるためには、相続発生時の書類や売却時の契約書類などを提出し、適正な手続きを行うことが重要です。
また、税制や手続きは年々変更されることがあるため、最新の情報を確認し、専門家(税理士など)に相談することをお勧めします。
相続空き家の譲渡に関する特例は、適切に利用することで相続人にとって有利な選択肢となり得ます。空き家問題の解決にも貢献するこの特例を活用し、円滑な相続手続きを進めましょう。