遺言書があっても安心できない「遺留分」の話。侵害額請求の仕組みと、生前にできる現実的な対策を専門家が解説
遺言書があっても安心できない「遺留分」の話。侵害額請求の仕組みと、生前にできる現実的な対策を専門家が解説
「全財産を長男に相続させる」——事業や自宅を守るため、あるいは介護をしてくれた子に報いるため、特定の相続人に財産を集中させる遺言はよく作成されます。
しかし、遺言で財産の行き先を自由に決められるのは事実である一方、他の相続人には「遺留分」という最低限の取り分が法律で保障されています。遺言の内容がこれを下回ると、財産を受け取った側は後から金銭の支払いを求められる可能性があります。せっかくの遺言が、かえって紛争の火種になってしまうケースは実務でも後を絶ちません。
この記事では、遺留分の正確な仕組みと、遺言を作る段階でできる現実的な対策を解説します。
遺留分とは:誰に、どれだけ認められるのか
遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子・直系尊属)に認められる、遺言でも奪えない最低限の権利です。全体の遺留分は、相続人が直系尊属(親など)だけの場合は遺産の3分の1、それ以外の場合は2分の1で、これを各自の法定相続分で分けます。
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相続人の構成 |
各人の遺留分 |
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配偶者のみ |
配偶者 1/2 |
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配偶者と子2人 |
配偶者 1/4、子 各1/8 |
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子2人のみ |
子 各1/4 |
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配偶者と父母 |
配偶者 1/3、父母 各1/12 |
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兄弟姉妹のみ |
遺留分なし |
ここで実務上きわめて重要なのが、兄弟姉妹(および甥姪)には遺留分がないという点です。子どものいないご夫婦の場合、遺言がなければ配偶者は義理の兄弟姉妹と遺産分割協議をしなければなりませんが、「全財産を妻に相続させる」という遺言を一通作っておけば、兄弟姉妹は遺留分を主張できず、配偶者に全財産を確実に残せます。遺言の効果が最も劇的に表れる類型です。
2019年の改正で何が変わったか:「モノの取り戻し」から「お金の請求」へ
2019年7月に施行された改正相続法で、遺留分の制度は大きく姿を変えました。
改正前の「遺留分減殺請求」では、請求されると不動産などが自動的に共有状態になり、長男が継いだ自宅や事業用不動産を弟妹と共有する、という身動きの取れない事態が生じていました。
改正後の「遺留分侵害額請求」では、請求できるのは金銭の支払いのみです。不動産が共有になることはなくなり、財産を承継した側は事業や自宅をそのまま守れるようになりました。
ただしこれは、裏を返せば「現金を用意して支払う義務」が発生するということです。遺産の大半が不動産や自社株で、手元資金が乏しい場合、遺留分の支払いのために結局その不動産を売却せざるを得ない——という本末転倒な結果になりかねません(なお、すぐに支払えない場合、裁判所に支払期限の猶予を求める制度はあります)。遺言で「誰に何を渡すか」だけでなく、「請求されたら何で支払うか」まで設計しておくことが、改正後の遺言実務の要諦です。
生前贈与も計算に入る:「10年・1年」のルール
遺留分は、亡くなった時点の財産だけで計算するのではありません。次の贈与も原則として計算の基礎に加えられます。
- 相続人への贈与:相続開始前10年以内にされた特別受益(婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与)
- 相続人以外への贈与:相続開始前1年以内の贈与
- 当事者双方が遺留分を害すると知って行った贈与は、期間の制限なく算入
「生前に長男へ贈与を済ませておけば遺留分は関係ない」というのはよくある誤解で、直近10年分の贈与は原則として遺留分の計算に取り込まれます。贈与で財産を移す対策と遺留分対策は、セットで考える必要があります。
請求には期限がある:1年で消える権利
遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効により消滅します。知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過すれば行使できません。
請求する側にとっては極めて短い期限です。実務では、期限内に配達証明付きの内容証明郵便で請求の意思表示をして証拠を残し、その後に具体的な金額の交渉に入るのが定石です。
生前にできる遺留分対策
それでは、財産を集中させたい側は何ができるのでしょうか。実務でよく用いられる対策を挙げます。
① 遺留分を侵害しない遺言設計にする
最も確実なのは、そもそも各相続人の遺留分相当額を下回らないように配分することです。全財産の目録と評価をもとに遺留分を試算し、「自宅と事業は長男へ、遺留分相当の金融資産は二男へ」といった設計にします。争いを完全に断つという意味では、これに勝る対策はありません。
② 生命保険で「支払い原資」を作る
死亡保険金は受取人固有の財産であり、原則として遺留分を計算する際の財産に含まれません。そこで、財産を集中させたい相続人(例:長男)を受取人とする生命保険に加入しておけば、長男は遺留分侵害額請求を受けても保険金を支払い原資に充てることができます。相続財産そのものを減らしながら、承継者の手元資金を厚くできる、遺留分対策の中心的な手法です。
ただし、遺産総額に比して保険金が著しく高額であるなど不公平が極端な場合には、例外的に保険金が特別受益に準じて考慮されるとした最高裁の判断があります。保険の掛け方には節度と設計が必要です。
③ 遺留分の事前放棄(家庭裁判所の許可)
相続人本人が納得しているなら、生前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄してもらう制度があります。ただし本人自身が家庭裁判所に申し立てる必要があり、放棄の見返り(相応の生前贈与など)があるかどうかが許可の判断で重視されます。「タダで放棄してもらう」ことは基本的に想定されていません。
④ 事業承継なら「除外合意・固定合意」
中小企業の自社株については、経営承継円滑化法に基づき、推定相続人全員の合意と所定の手続き(経済産業大臣の確認・家庭裁判所の許可)を経ることで、自社株を遺留分の計算から除外したり、価額をその時点で固定したりできる特例があります。後継者への株式集中を図る場合の重要な選択肢です。
⑤ 付言事項で「想い」を残す
遺言の末尾に、なぜこの配分にしたのかという理由や家族への感謝を記す「付言事項」には法的効力はありません。しかし、遺留分を請求するかどうかは最終的に相続人の感情が決めます。実務の肌感覚として、丁寧な付言があるかどうかで遺されたご家族の受け止めは確実に変わります。
まとめ:遺言は「遺留分シミュレーション」とセットで
偏りのある遺言を作ること自体は、遺言者の自由であり、有効です。問題は、遺留分という「後から来る金銭請求」を織り込まずに作られた遺言が、結果として最も大切にしたかった相続人を資金繰りの窮地に追い込んでしまうことです。
財産の評価、過去10年の贈与の洗い出し、保険の設計、そして納税資金——遺留分対策は、法律と税務の両面からの検討が欠かせません。相続太郎には司法書士と税理士が所属しており、両輪でのご相談が可能です。ホームページからのお問い合わせなら初回相談30分は無料ですので、遺言書を作る前に、一度「遺留分の健康診断」を受けてみてください。
このコラムの監修者
- 司法書士
- 東京都エリア担当
所属:司法書士法人 神楽坂法務合同事務所
相続太郎のホームページをご覧いただきありがとうございます。
司法書士の庄田と申します。
司法書士事務所を開業してから約10年、相続のお問い合わせは年々増えています。
家族仲がよく、全く揉めることなく終わる相続は大体2割くらいです。
法的、税務的に問題がある場合もありますし、感情的な問題がある場合も多くあります。
残念ながら日本では生きているうちに自分が亡くなった後のことをきちんと整理しておこうと積極的に行動される方はまだ少数派です。
遺言を書く、保険に入っておく、不動産を分割しやすいように整理しておくなど、終活は残される方への愛情だと思います。
相続太郎というキャラクターは相続のことを話すハードルを下げるために作りました。
お気軽に、まずはご相談下さい。
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司法書士の庄田と申します。
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家族仲がよく、全く揉めることなく終わる相続は大体2割くらいです。
法的、税務的に問題がある場合もありますし、感情的な問題がある場合も多くあります。
残念ながら日本では生きているうちに自分が亡くなった後のことをきちんと整理しておこうと積極的に行動される方はまだ少数派です。
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