相続コラム

おひとりさまの相続対策は「遺言書だけ」では足りない。死後事務委任契約と任意後見でつくる生前設計の全体像

おひとりさまの相続対策は「遺言書だけ」では足りない。死後事務委任契約と任意後見でつくる生前設計の全体像

相続人がいないまま亡くなった方の遺産は、最終的に国のものになります。その額は年々増え続け、2024年度には約1,292億円が国庫に帰属したと報じられました。10年前の約3倍という規模です。

生涯未婚率の上昇や少子化を背景に、配偶者も子もいない「おひとりさま」の相続は、もはや特別な話ではありません。そして実務の現場で痛感するのは、おひとりさまの備えは「遺言書を書けば完了」ではないということです。財産の行き先(遺言)だけでなく、①判断能力が衰えたときの備えと、②死後の手続きを実行してくれる人の確保が揃って、初めて設計として機能します。

この記事では、おひとりさまが整えておくべき備えの全体像を解説します。

相続人がいないと、財産と手続きはどうなるのか

相続人が誰もいない場合、遺産は放置され、利害関係人(債権者や自治体など)の申立てで家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。清算人が債務を清算し、内縁のパートナーや献身的に介護した人など「特別縁故者」への分与が認められる場合はありますが、認められるかどうか、いくら認められるかは家庭裁判所の裁量次第で、確実性はありません。残った財産は国庫に帰属します。

つまり、内縁の妻・夫、長年連れ添ったパートナー、お世話になった人には、遺言がなければ原則として1円も渡らないのです。冒頭の1,292億円という数字は、「本人が望んだ形で財産が渡らなかった相続」の集積ともいえます。

実は「相続人がいる」おひとりさまも要注意

一方で、配偶者も子もいなくても、兄弟姉妹やその子(甥・姪)が相続人になるケースは多くあります。この場合は別の問題が生じます。

  • 兄弟姉妹の相続では、被相続人の両親の出生までさかのぼる戸籍が必要になるなど、手続きの負担が非常に重い
  • 何十年も交流のない甥姪が、突然その負担を背負うことになる
  • 相続人が多数・全国に散らばり、遺産分割協議がまとまらない

ここで知っておきたいのが、兄弟姉妹(甥姪)には遺留分がないという法律上のルールです。つまり遺言さえ作っておけば、財産の行き先を100%自分の意思で決められます。「甥に全部渡したい」「特定の団体に寄付したい」「パートナーに残したい」——どの希望も、遺言一通と遺言執行者の指定で実現でき、疎遠な親族を煩雑な手続きから解放することにもなります。おひとりさまにとって遺言は、遺留分に悩む必要がない分、他のどの家族類型よりも「効く」道具なのです。

それでも遺言書「だけ」では足りない理由

では遺言を作れば万全かというと、そうではありません。遺言でカバーできるのは、原則として財産の行き先までです。亡くなった直後に発生する次のような「作業」は、遺言の効力ではまかなえず、誰かが手を動かす必要があります。

  • 遺体の引き取り、葬儀・火葬・納骨(お墓や永代供養の手配)
  • 病院・介護施設の退院退所手続きと費用の精算
  • 賃貸住宅の解約・家財の処分・明け渡し
  • 電気・ガス・水道・携帯電話の解約
  • 健康保険・年金などの行政手続き
  • SNSアカウントの削除、サブスクリプションの解約などのデジタル遺品の整理
  • ペットの引き渡し

家族がいれば当然のように担われるこれらの事務は、おひとりさまの場合、担い手が存在しません。遺体の引き取り手がなく自治体が対応するケースは年間4万件を超えると推計されており、貸主や施設、自治体が困り果てる事態が現実に多発しています。

死後事務委任契約:死後の「作業」を託す契約

この空白を埋めるのが死後事務委任契約です。生前に、上記のような死後の事務を誰に・どこまで・どう実行してもらうかを取り決めておく契約で、受任者には信頼できる知人のほか、司法書士などの専門家や法人を指定できます。

実務上のポイントは次のとおりです。

  • 公正証書で作成する:契約の存在と内容を対外的に証明しやすくするため、公正証書化が事実上の標準です。病院や役所、貸主に契約書を示して手続きを進める場面が多いためです。
  • 費用の手当てをセットで決める:葬儀費用や家財処分費などの実費と受任者の報酬をどう確保するかが最重要論点です。生前に一定額を預託する方式や、遺言と連動させて遺産から清算する方式があり、葬儀の規模等にもよりますが、預託額は数十万円から百数十万円程度になるのが一般的です。

遺言と必ずセットで設計する:死後事務の受任者と遺言執行者がバラバラだと、費用の清算や家財処分の権限を巡って衝突が起きます。遺言・死後事務委任は同じ専門家(または連携した専門家)に一体で設計してもらうのが安全です。

生きている間」の備えも同時に:任意後見契約

もう一つ、おひとりさま設計に欠かせないのが、判断能力が衰えたときの備えです。認知症などで判断能力が低下すると、預金の管理や施設入所の契約が自分でできなくなりますが、頼める家族がいなければ、家庭裁判所が選んだ後見人(法定後見)に委ねるほかなくなり、誰が後見人になるかを自分では選べません。

そこで、元気なうちに「将来判断能力が低下したら、この人に財産管理や契約を任せる」と決めておくのが任意後見契約です(公正証書での作成が法律上必須です)。効力が発生するのは、実際に判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時からです。

あわせて、定期的な連絡や訪問で異変に気づいてもらう見守り契約、体は元気でも外出が難しくなったときのための財産管理等委任契約を組み合わせることもあります。

全体設計:時系列でつながる「4点セット+遺言」

おひとりさまの備えは、時系列で整理すると分かりやすくなります。

時期

備え

役割

元気なうち

見守り契約・財産管理等委任契約

異変の察知、日常の財産管理のサポート

判断能力の低下後

任意後見契約

自分で選んだ人による財産管理・身上保護

死亡直後

死後事務委任契約

葬儀・納骨・解約・精算などの実行

死亡後

遺言(+遺言執行者)

財産を望む相手へ確実に承継

 

すべてを一度に契約する必要はありませんが、核となる任意後見契約と遺言・死後事務委任は「判断能力があるうち」にしか作れません。認知症の診断が出てからでは手遅れになる、という一点において、この分野は他のどの相続対策よりも時間との勝負です。

まとめ:元気な今だからこそ設計できる

おひとりさまの相続・死後の備えは、遺言・死後事務委任・任意後見という複数の制度を、費用の手当てまで含めて矛盾なく組み合わせる「設計」の仕事です。どれか一つが欠けても、財産の行き先が宙に浮いたり、手続きの担い手がいなくなったりします。

「まだ元気だから先の話」と感じる方こそ、実は最適なタイミングにいます。相続太郎には、遺言・後見・死後事務の実務に精通した司法書士が所属しており、ホームページからのお問い合わせなら初回相談30分は無料です。ご自身の希望を整理するところから、一緒に始めてみませんか。

このコラムの監修者

しょうだ かずき庄田 和樹
司法書士
東京都エリア担当
所属:司法書士法人 神楽坂法務合同事務所

相続太郎のホームページをご覧いただきありがとうございます。
司法書士の庄田と申します。
司法書士事務所を開業してから約10年、相続のお問い合わせは年々増えています。
家族仲がよく、全く揉めることなく終わる相続は大体2割くらいです。
法的、税務的に問題がある場合もありますし、感情的な問題がある場合も多くあります。
残念ながら日本では生きているうちに自分が亡くなった後のことをきちんと整理しておこうと積極的に行動される方はまだ少数派です。
遺言を書く、保険に入っておく、不動産を分割しやすいように整理しておくなど、終活は残される方への愛情だと思います。
相続太郎というキャラクターは相続のことを話すハードルを下げるために作りました。
お気軽に、まずはご相談下さい。

しょうだ かずき庄田 和樹

相続太郎のホームページをご覧いただきありがとうございます。
司法書士の庄田と申します。
司法書士事務所を開業してから約10年、相続のお問い合わせは年々増えています。
家族仲がよく、全く揉めることなく終わる相続は大体2割くらいです。
法的、税務的に問題がある場合もありますし、感情的な問題がある場合も多くあります。
残念ながら日本では生きているうちに自分が亡くなった後のことをきちんと整理しておこうと積極的に行動される方はまだ少数派です。
遺言を書く、保険に入っておく、不動産を分割しやすいように整理しておくなど、終活は残される方への愛情だと思います。
相続太郎というキャラクターは相続のことを話すハードルを下げるために作りました。
お気軽に、まずはご相談下さい。

司法書士・税理士を探す

初回相談無料