相続コラム

相続対策に生命保険を活用するメリットとは?非課税枠や注意点を解説

「家族にできるだけ多くの資産を残したい」「生命保険で相続対策できるって本当?」このようにお考えの方はいませんか?

相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除がありますが、近年この控除額は大幅に引き下げられました。これにより、かつては一部の資産家だけの問題だった相続税が、一般家庭にも身近な問題となっています。「うちは関係ない」と思い込んでいると、思わぬ税負担に直面する可能性も。

そこで注目されているのが、生命保険を活用した相続対策です。この記事では、生命保険が相続対策に効果的な理由をわかりやすく解説します。注意点やデメリットも紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

なお生命保険以外の相続税対策は、下記の記事にまとめていますので、合わせてご覧ください。 相続対策でできること5選|節税につながる生前の備えとは?

生命保険とはどんな仕組み?相続対策に使える理由

生命保険とは被保険者が亡くなった際や一定の条件を満たした際に、あらかじめ指定された受取人に保険金が支払われる仕組みの金融商品です。

主に「遺された家族の生活を保障する」目的で加入されますが、実はこの生命保険の性質を活かして「相続対策」としても活用できます。

ここでは生命保険が相続税の課税対象になる点や、契約者・被保険者・受取人の組み合わせによって課税される税金の種類が異なる点について、詳しく解説します。

生命保険は相続税の課税対象になる

被相続人の死亡により受け取る生命保険金は、「みなし相続財産」として相続税の対象になります。つまり、たとえ保険金が現金や不動産などの遺産とは別に支払われるものであっても、税法上は相続財産として扱われるのです。

ただし、生命保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられており、この枠内であれば相続税はかかりません。たとえば法定相続人が3人いる場合は、1,500万円までの保険金を非課税で受け取れます。ただし、非課税枠は契約者が被保険者と同一で、受取人が法定相続人であることが前提です。

参考:相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁

相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える財産がある家庭では、生命保険の非課税枠を活用することで相続税の節税につながる可能性があります。

被保険者・契約者・受取人の組み合わせで税金の種類が変わる

生命保険の保険金に課税される税金の種類は、「誰が契約者で、誰が被保険者で、誰が受取人なのか」によって異なります。以下の表をご覧ください。

契約者

被保険者

受取人

課税される税金の種類

相続税

所得税・住民税

(一時所得)

贈与税

たとえば、契約者=被保険者が夫、受取人が妻の場合は「相続税」の対象となり、非課税枠も活用できます。

このように、契約者・被保険者・受取人の組み合わせによって課税される税金が異なります。契約の組み合わせを誤ると思わぬ税負担が発生することがあるため、注意が必要です。

相続対策で生命保険を活用する5つのメリット 

ここまでに紹介したように、生命保険は万一に備えるだけでなく、相続対策の有効な手段としても注目されています。

ここでは、相続対策に生命保険を活用することで得られる5つのメリットを具体的に紹介します。

  • 生命保険の非課税枠を利用できる
  • 遺族が納税や葬儀に必要なお金をすぐに受け取れる
  • 特定の人に財産を確実に残せる
  • 相続放棄しても保険金は受け取れる
  • 分割しにくい資産の代償分割の原資として活用できる

 生命保険の非課税枠を利用できる

相続対策として生命保険を活用するもっとも大きなメリットは、「生命保険は相続税の課税対象になる」の章でも説明した、生命保険の非課税枠を利用できることです。

生命保険には「500万円×法定相続人の数」という独自の非課税枠が設けられています。これは相続税の基礎控除とは別に適用されるもので、一定額までの保険金が相続税の課税対象から外れる仕組みです。たとえば法定相続人が3人いれば、1,500万円までの保険金は非課税で受け取れます。

これは「生命保険金は本来、残された遺族の生活保障や葬儀費用のために支払われるもの」という趣旨にもとづいた制度です。

生命保険の非課税枠を上手に活用すれば、相続税の負担を大きく軽減できます。

遺族が納税や葬儀に必要なお金をすぐに受け取れる

遺族が納税や葬儀に必要なお金をすぐに受け取れる点も、生命保険のメリットです。一般的に被保険者が亡くなった後、死亡保険金は必要書類を提出すれば、数日から2週間程度で受け取れます。

生命保険の死亡保険金に対し、現金以外の資産(不動産や有価証券、定期預金など)は、名義変更や遺産分割協議、金融機関とのやり取りが必要なため、受け取るまでに時間がかかります。

たとえば相続税の納付期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内と定められており、それまでに納税資金を用意しなければなりません。

参考:相続税の申告と納税|国税庁

葬儀費用も平均で100万〜200万円ほどかかることが多く、手元に自由に使えるお金がないと遺族が困る場面も少なくありません。

被保険者が亡くなったあとにすぐに現金で支払われる生命保険金は、納税資金や葬儀費用として頼りになります。

 特定の人に資産を確実に残せる

相続対策で生命保険を活用するメリットとして、特定の人に資産を確実に残せることも挙げられます。

生命保険の保険金は、契約時に指定された受取人に直接支払われるという特徴があります。つまり生命保険は遺言や遺産分割協議の影響を受けることなく、受取人は確実に保険金を受け取れるのです。

たとえば内縁の配偶者や面倒を見てくれた長男の妻など、法律上の相続人ではない人に資産を残したい場合、遺言を書くだけではトラブルが生じる可能性もあります。一方、生命保険で受取人を指定しておけば、他の相続人の同意や手続きを必要とせずに確実に資産を渡せます。

このように「特定の人に、確実かつスムーズに資産を渡したい」というニーズにも、生命保険は有効です。

相続放棄をしても保険金は受け取れる

相続放棄をした際も生命保険の保険金は受け取れることも、相続対策で生命保険を活用するメリットです。

一般的に相続放棄をすると故人の遺産を一切受け取れなくなりますが、生命保険金については例外があります。生命保険金は法律上「受取人固有の財産」とされているため、相続放棄をしても受取人に指定されていれば受け取れるのです。

ただし注意したいのは、相続放棄をした受取人には生命保険の非課税枠が適用されないという点です。つまり保険金は受け取れるものの、全額が相続税の課税対象となる可能性もあります。

このように、相続放棄と生命保険の保険金の取り扱いには細かなルールがあるため、契約内容や税務上の扱いについては専門家に相談すると安心です。

内部リンク:相続放棄が相続税対策になる?

分割しにくい資産の代償分割の原資として活用できる

相続において分割しにくい資産の代償分割の原資としても、生命保険は活用できます。

相続財産の中に「分割しにくい資産」が含まれている場合、遺産の分配をめぐって争いが起きやすくなります。相続で分割しにくい資産の一例は下記のとおりです。

  • 実家の土地と建物
  • 収益物件
  • 農地
  • 自家用車
  • 絵画や骨董品
  • 非上場株式

上記は現物のままでは複数人で分けにくく、評価や管理の問題も生じます。

このような場合、現金で支払われる生命保険金があれば、不動産を相続する人以外に「代償金」として渡すことで、スムーズな分割協議が可能になることがあります。たとえば、長男が実家を相続し、他の兄弟には生命保険金を現金で分配する、といった形です。

生命保険は「公平な相続」を実現するための現金の原資としても、非常に有用です。

相続対策で生命保険を活用する際の6つのデメリット・注意点 

ここまでに紹介したように、生命保険は非課税枠の活用や現金化のしやすさなど、相続対策として多くのメリットがあります。

しかし、生命保険の制度や仕組みを正しく理解しておかないと、思わぬトラブルや税負担につながることも。

ここでは、生命保険を相続対策として活用する際に知っておきたい6つのデメリット・注意点を紹介します。生命保険の注意点を理解して、事前に対策を施しましょう。

  • 非課税枠が使えるのは法定相続人に限られる
  • 契約者・保険料の払込者・受取人の関係で税金の種類が異なる
  • 高齢で加入すると保険料が高くなる
  • 受取人がすでに亡くなっていると節税効果がなくなることもある
  • 相続が発生してからでは受取人を変更できない
  • 保険料の未払いで保険契約が失効するリスクがある

非課税枠が使えるのは法定相続人に限られる

生命保険には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠がありますが、これは法定相続人にのみ適用されます。

たとえば、長年介護をしてくれた子どもの妻や内縁の配偶者に保険金を渡したいと考えたとしても、その人が法定相続人でなければ非課税枠は使えません。

また相続放棄をした場合も注意が必要です。相続放棄をした人が保険金を受け取った場合、全額課税対象となります。誰を生命保険の受取人に指定するかは、節税の面でも重要な判断です。

 契約者・保険料の払込者・受取人の関係で税金の種類が異なる

生命保険は「誰が契約者か」「誰が保険料を支払ったか」「誰が受け取るか」によって課税される税金の種類が異なります。たとえば、契約者=被保険者=夫で、受取人が妻である場合は「相続税」の対象となり、非課税枠の利用も可能です。

一方、契約者が妻で被保険者が夫、受取人も妻というケースでは、妻自身が保険料を払い、自分で保険金を受け取る構図になるため、「所得税・住民税(一時所得)」が課税されます。

さらに、契約者=妻、被保険者=夫、受取人=子という場合は、「贈与税」の対象となるので注意が必要です。

このように、生命保険契約の形によって税金の種類が変わるため、事前に税理士など専門家に相談して、最適な契約形態を検討しましょう。

高齢で加入すると保険料が高くなる

生命保険は年齢が高くなるほど、保険料も割高になります。場合によっては、加入自体が難しくなるケースも。

終身保険などの保障が一生涯続くタイプは、60代以降では月々の保険料が数万円以上になることも珍しくありません。

たとえばオリックス生命保険の「終身保険ライズ」を、保険金額500万円、保険料払込期間15年の条件で保険料のシミュレーションをしました。すると35歳男性の場合月額保険料19,655円、60歳男性の場合月額保険料25,775円という結果でした。(※20257月現在)

参考:保険料シミュレーション|オリックス生命

また健康状態によっては審査に通らず、そもそも加入できないというリスクもあります。相続対策として生命保険を活用したい場合は、できるだけ早めに準備しましょう。

受取人がすでに亡くなっていると節税効果がなくなることもある

生命保険の受取人が被保険者の死亡時点ですでに亡くなっていた場合、保険金は契約時の指定にもとづいて支払われなくなります。このようなケースでは、保険会社によって対応が異なりますが、一般的には受取人の法定相続人が新たな保険金の受取人として扱われます。

たとえば、夫が妻を受取人に指定していたが、妻が先に亡くなっていた場合、妻の相続人が保険金を受け取る対象です。さらにその相続人がすでに死亡している場合は、次の法定相続人へと権利が移る仕組みです。

また、こうした状況になると生命保険の非課税枠を活用できなくなることにも注意が必要です。受取人が指定されていない、または無効になっている場合、保険金は「みなし相続財産」として遺産全体に組み込まれ、他の相続財産と一緒に分割協議の対象となってしまいます。

その結果、本来であれば非課税で受け取れた保険金が課税対象になったり、他の相続人との間で分割方法をめぐる争いが生じたりする可能性も出てきます。保険金の支払いまでに時間がかかることもあり、遺族の生活資金や納税準備に支障をきたすおそれもあるでしょう。

このようなリスクを避けるためには、保険の受取人が現在も有効かどうか、定期的に契約内容を見直すことが大切です。

相続が発生してからでは受取人を変更できない

生命保険の受取人は、契約者が生きている間にしか変更できません。相続が発生してしまった後では、誰が保険金を受け取るかは変更できず、契約内容に従って支払われます。

たとえば、離婚後も元配偶者が受取人のままだったために、まったく連絡を取っていなかった元配偶者が保険金を受け取ったというケースもあります。

こうした問題を防ぐには、家族構成や関係性に変化があったときはもちろん、数年おきに契約内容を見直す習慣をもちましょう

保険料の未払いで保険契約が失効するリスクがある

生命保険は契約後も定期的に保険料を支払い続けることで、保障が維持される仕組みです。ところがうっかり支払いを忘れてしまっていたり、経済的な事情で滞納が続いたりすると、生命保険契約が失効してしまうリスクがあります。

生命保険の失効とは保険の効力が消滅し、保険金の対象外になる状態です。その結果、被保険者が亡くなっても保険金を受け取れず、相続対策としての効果が無駄になる可能性も。

多くの保険では「復活制度」が設けられており、一定の期間内であれば契約をもとに戻せる場合もあります。ただし、復活には健康状態の再審査が必要となることもあり、未払いの保険料や利息を一括で支払う必要も出てきます。こうした生命保険の復活制度の手続きは、精神的にも金銭的にも負担がかかるため、油断は禁物です。

また年齢が高くなってから加入していた場合には、一度失効してしまうと再加入自体が難しくなることもあります。とくに健康状態によっては、再契約を断られてしまうこともあるため注意が必要です。

生命保険失効のトラブルを防ぐためには、普段から口座の残高を確認し、保険料の引き落としが確実に行われるようにしておきましょう。

支払い方法を口座振替からクレジットカードに変更しておくことで、引き落とし漏れを防ぐ工夫もできます。また保険会社から届く通知書や案内には必ず目を通し、少しでも不明点があれば早めに確認する習慣をもちましょう。

生命保険でスムーズな相続対策を実現しよう! 

この記事では生命保険を活用した相続対策の仕組みやメリット、注意点について紹介しました。

相続対策における生命保険の活用は、相続税の節税だけでなく、資産の分配・納税資金の準備・家族間トラブルの予防などさまざまなメリットがあります。

ただし生命保険の契約内容や税金の扱いには細かなルールがあり、誤った判断をするとかえってトラブルを招くこともあります。

「家族に迷惑をかけたくない」「自分の意思で資産を渡したい」「できるだけ節税したい」と考えている方は、早めに準備を始めることが大切です。具体的な生命保険設計や税金の相談は、相続に詳しい専門家へ相談することをおすすめします。

 

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