相続と農地、そして新たな選択肢「国庫帰属制度」について
相続に関するご相談は多岐にわたりますが、中でも「農地の相続」は、その特殊性ゆえに頭を悩ませる方が少なくありません。少子高齢化や都市部への人口集中が進む中、先祖代々受け継いできた農地が、相続を機に「負の遺産」となってしまうケースも散見されます。
農地の相続が抱える一般的なお悩み
「実家は離れていて管理が難しい」「農業を継ぐ意思のある親族がいない」「固定資産税の負担だけが重くのしかかる」――。こうしたお悩みは、決して珍しいものではありません。これまで、使わない農地をどうするかという問題は、売却や賃貸、あるいは耕作放棄といった限られた選択肢の中で判断せざるを得ませんでした。
新制度「土地国庫帰属制度」の概要
しかし、令和6年4月1日に施行された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(通称:土地国庫帰属制度)は、このような農地を巡る相続対策に新たな道筋を示しました。
この制度は、相続または遺贈によって土地の所有権を取得した方が、その土地を不要と判断した場合に、一定の要件を満たせば国に土地を引き取ってもらえるという画期的なものです。税理士として、この制度を相続対策の一環としてどのように捉えるべきか、具体的な視点から解説します。
国庫帰属制度のメリットと留意点
メリット:管理負担と固定資産税の負担からの解放
まず、相続対策としてこの制度を検討する最大のメリットは、「将来にわたる管理負担と固定資産税の負担からの解放」です。遠方に住んでいるために農地の管理が困難な場合や、農業を継ぐ者がいないために遊休化してしまう恐れがある農地は、所有し続ける限り、固定資産税が課され、草刈りなどの管理の手間も発生します。国庫帰属制度を利用することで、これらの負担から解放され、精神的な負担も軽減されるでしょう。
留意点:要件と負担金
しかし、国庫帰属にはいくつかの要件と留意点があります。農地の場合、特に注意が必要なのは、以下の要件です。
- 「通常の管理または処分を阻害する有体物が地上に存在しないこと」
- 「境界が明らかであること」
長年耕作放棄されていた農地では、樹木の繁茂やゴミの不法投棄などにより、これらの要件を満たすことが難しいケースも考えられます。
また、国庫への帰属が認められた場合でも、土地の種類や面積に応じた「管理費用相当額の負担金」を国に支払う必要があります。この負担金は、10年分の土地管理費に相当するとされており、広大な農地であれば、それなりの金額になることも認識しておくべきです。
国庫帰属制度を「最終的な選択肢の一つ」として捉える
お勧めしたいのは、この国庫帰属制度を「最終的な選択肢の一つ」と位置づけ、その前に複数の相続対策を検討することです。例えば、以下の選択肢も有効です。
- 農地の売却や賃貸による収益化
- 農業法人への譲渡
- 隣接する農地所有者への集約化
特に、地域の農業を活性化させる観点からも、農地として引き続き活用してもらうことが望ましいでしょう。
まずは専門家への相談を
相続が発生する前、あるいは発生した後でも、まずは農地の現状を把握し、売却価値や賃貸需要の有無、地域の農業における位置づけなどを専門家と相談することが重要です。押田会計では、相続税の申告はもちろんのこと、不動産鑑定士や司法書士、土地家屋調査士などと連携し、最も効果的な相続対策をご提案することができます。
この国庫帰属制度は、所有者不明土地問題の解決に寄与するとともに、農地の相続に悩む方々にとって新たな光となるでしょう。しかし、その利用は慎重に、そして他の選択肢と比較検討した上で判断されるべきです。円滑な相続と、未来に繋がる資産の形成のために、ぜひ早めに専門家にご相談ください。
【監修・執筆】
押田 太郎(おしだ たろう)
税理士法人 押田会計 代表
※本記事の内容は、令和6年4月1日施行の法律に基づき執筆されており、今後の法改正等により内容が変更となる可能性があります。正確な手続きや判断については、必ず専門家にご相談ください。