遺言を作成した方がよいケース③│推定相続人の中に海外居住者や認知症の方がいる場合
「うちにはそんなに財産もないし、遺言なんて必要ない」と思っていませんか?その認識、実は少し違うかもしれません。
たとえ全財産が自宅と預貯金数百万円くらいであっても、「家族・親族関係」や「財産の分け方」に不安がある方は、
遺言を書いておくべきなのです。
書いておくべき場合3種
遺言書を書いておくべき場合と、具体的なケースを紹介していますが、
- 前々回:「財産の分け方を決めておきたい場合」について解説しました。
- 前回:「子供のいないご夫婦やおひとりさまの場合」について解説しました。
今回は「推定相続人の中に海外居住者や認知症の方がいる場合」について解説していきます。
前提知識
これまでご説明をしてきたとおり、法定相続分どおりの相続でない場合は、遺産分割協議を行った上で分割協議書への署名や実印の押印、印鑑証明書の添付を求められます。ですが、現実には、そもそも遺産分割ができないケースや、手続きが非常に難航するケースが少なくありません。
ケース①――認知症による意思能力の欠如
できない場合として最も多いパターンが、「認知症により意思判断ができない(意思能力がない)」という状況です。
「意思能力」は法律用語であり、「行為の結果を判断するに足るだけの精神能力」を指します。
【補足】意思能力の判断基準
法律上の能力ですので、数値的な基準があるわけではありませんが、「説明しても理解できない・自分の法律的な行動(契約等)についての判断ができない」というような場合は、意思能力がないと判断されます。
意思能力がない人の場合、遺産分割そのものができません。他の人が代わりに協議書に署名捺印をすれば……と思われるかもしれませんが、例え家族・親族であっても、他の人の相続権に関する話し合いを行ってはいけません。署名捺印を行えば「私文書偽造罪」という犯罪に問われる恐れもあります。
法律的に最も正当な手段は、その人につき後見人をつけることです。しかし、後見人は裁判所とのやり取りを通じて選任されるため、費用も時間もかかってきてしまいます。
ケース②――障害による意思能力の欠如
意思能力の欠如の理由になり得るものとして、認知症の外にも、知的障害等の精神的な障害が挙げられます。こちらも、障害の程度にもよりますが、認知症と同様に遺産分割協議が難しいでしょう。
余命いくばくもないと診断された方(自身の子供に重度の知的障害がある)の公正証書遺言作成を緊急で行ったことがあります。大急ぎで必要な書類を集めて案文を作成し、依頼から作成までを数日で完了させました。この方はその数週間後に亡くなられました。
ケース③――未成年の子供
法律上、未成年の子供は、契約などの法律行為をすることが制限されています。そのため、遺産分割協議にあたっては、普通の場合に比べて必要な手続きや手間が増えることになります。具体的には、「特別代理人」の選定が必要になります。
というのも、未成年の子供が法律行為を行う場合、通常であれば親が代理で行います。しかし遺産分割協議の場合、遺された側の親も子供も相続人であるため、互いに利害関係があることになります(利益相反)。この状況では、親は代理権を行使できないため、裁判所から特別代理人を選任してもらわなくてはなりません。※未成年の子供が複数人いる場合は、ひとりひとりに別々の特別代理人が必要です。
ケース④――海外居住の相続人
遺産分割協議が難航するのは、意思能力の問題だけではありません。制度的・地理的な問題もあります。
制度的な壁:実印と署名証明
実印の登録制度は、日本や台湾等でしか行われていません。つまり、例えばアメリカに居住している相続人は、実印登録制度がないため、遺産分割協議書に実印を押すことができないのです。
※その代わり、現地の日本領事館等で発行してもらう「署名証明書(サイン証明)」を利用することができます。
地理的・コミュニケーションの壁
このような制度的な問題の外に、以下の問題も存在します。
- 原本郵送の手間:協議書やサイン証明は必ず原本が必要なため、海外から郵送してもらわなくてはなりません。
- 郵送リスク:治安によっては、郵送物の盗難・紛失リスクが高い国もあります。
- 言語と時差:「日本語がほとんど理解できない」「時差のせいで連絡がとれない」などの理由で、協議書を完成させるまでに膨大な時間がかかる傾向にあります。
特に海外に永住している方であれば、日本の土地を貰っても管理が難しいため、相続しない土地のために複雑な書類を準備することに抵抗感を抱く可能性もあります。
まとめ
以上のように、遺産分割協議が難航する可能性がある場合、遺された側の負担を軽くするためにも、遺言を作成しておくべきです。
これまで3回にわたり遺言を作成した方が良いケースを紹介してきましたが、ご自身の状況に少しでも当てはまると感じられた方は、ぜひお元気なうちに遺言の作成をご検討ください。
このコラムの監修者
- 司法書士
- 熊本県エリア担当
所属:司法書士法人小屋松事務所
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